目次

  1. 令和8年度診療報酬改定で何が変わるのか
  2. 医師事務作業補助体制加算×生成AI ─ 1.2人・1.3人換算の仕組み
  3. 対象となる業務範囲と要件
  4. 医療文書の生成AI活用で変わる現場の業務フロー
  5. 補助金の活用 ─「業務効率化・職場環境改善支援事業」とは
  6. 導入にあたって押さえておくべきポイント
  7. まとめ ─ 今から準備すべきこと

2026年2月13日、中央社会保険医療協議会(中医協)において、令和8年度(2026年度)診療報酬改定の答申が行われました。今回の改定では、医師の働き方改革医療DXの推進を背景に、生成AIやICTの活用に対する評価が大きく前進しました。

なかでも病院経営に直接インパクトをもたらすのが、「医師事務作業補助体制加算」の施設基準見直しです。生成AIを活用した医療文書の作成補助体制を整備することで、医師事務作業補助者1人を最大1.3人として配置人数に換算できるようになります。

本記事では、改定の内容を速報的に解説するとともに、紹介状や退院時サマリなどの医療文書作成にAIを活用するメリット、さらに導入費用を支援する補助金の情報について整理します。

1. 令和8年度診療報酬改定で何が変わるのか

令和8年度の診療報酬改定は、本体でプラス3.09%という歴史的な引き上げ幅となりました。賃上げ対応、物価高騰への対処に加え、政策的な新規拡充として0.25%分がICT・AI活用を含む医療DX推進に振り向けられています。

とりわけ注目すべきは、「業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進」の一環として位置付けられた医師事務作業補助体制加算の見直しです。これまでは「人を配置する」ことのみが評価の対象でしたが、今回の改定では「AIを組織的に活用する体制」も配置基準に組み込まれる形となりました。

▼ 改定のポイント

生成AIによるサマリー・診断書・紹介状等の原案作成や、RPAによる定型入力業務を組織的に活用している場合、医師事務作業補助者1人あたりの配置人数を最大1.3人として換算可能に。「人の配置+AIの活用」がセットで評価される新たな枠組みです。

2. 医師事務作業補助体制加算×生成AI ─ 1.2人・1.3人換算の仕組み

今回の見直しでは、ICT・AI活用の導入レベルに応じて段階的な換算が認められます。

換算倍率主な要件の概要
1.2人換算生成AIによる文書作成補助システムの導入が必須。退院時要約・診断書・紹介状等の原案作成を自動的に行うシステムを組織的に導入し、大半の医師・医師事務作業補助者が日常的に活用していること
1.3人換算上記の生成AI(必須)に加え、以下のICT機器のうち1種類以上を広く活用していること:①医療文書用の音声入力システム ②RPAによる定型入力作業の自動化 ③10種類以上の患者向け説明動画

具体的な施設基準要件(ア〜エの4要件すべてを満たすこと)

  • ア:生成AIを活用した文書作成補助システムを含むICT機器を組織的に導入し、大半の医師・医師事務作業補助者が日常的に活用することで業務効率化が顕著に図られていること
  • イ:電子カルテ等と連動するICT機器が「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」等に準拠していること
  • ウ:生成AI等を用いる製品・サービスが「AI事業者ガイドライン」を遵守していること
  • エ:すべての医師事務作業補助者にICT機器の操作方法と生成AIの適切な利用に関する研修を実施し、常時ICT機器を用いて業務を遂行できる体制を整備していること

さらに、新たに届け出る場合は直近3か月以上にわたりICT活用なしの配置基準で当該配置区分を算定し続けている実績が必要です。また、導入後は年1回以上の効果評価(業務量・業務時間・医師の負担感等)を行い、衛生委員会等で結果を確認する義務があります。

💡 実務上のポイント

たとえば300床の病院で50対1補助体制加算を届出している場合、必要な配置人数は6名です。1.3人換算が認められれば、5名の配置で6.5名換算となり、基準を満たすことが可能になります。人材採用難の時代において、既存スタッフの体制で上位加算の取得を目指せる点が大きなメリットです。

3. 対象となる業務範囲と要件

今回の改定で「生成AIによる文書作成補助」として想定されている業務範囲には、以下のようなものが含まれます。

  • 診療情報提供書(紹介状)の原案作成
  • 退院時サマリの原案作成
  • 診断書等の各種医療文書の下書き
  • その他、医師の指示のもとで行う文書作成補助業務

重要なのは、AIが出力した文書はあくまで「原案・下書き」であり、最終的な内容の確認・承認は必ず医師が行うという点です。いわゆる「Human in the loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」の原則が厳格に求められます。

また、RPAの対象となる業務としては、救急医療情報システムへの入力感染症サーベイランスに係る入力など、定型的な事務作業が該当します。

4. 医療文書の生成AI活用で変わる現場の業務フロー

これまで紹介状や退院時サマリの作成は、医師や医師事務作業補助者がカルテを一件ずつ遡りながら情報を整理し、文書に落とし込む作業が必要でした。特に経過の長い患者では、この作業だけで数十分を要することも珍しくありません。

生成AIを活用した文書作成支援では、電子カルテのデータをもとにAIが自動で文書案を生成します。医師はゼロから書く必要がなく、AIが作成した原案を確認・修正するだけで完了するため、作業時間を大幅に短縮できます。

導入前後の業務フロー比較

従来の流れAI活用後の流れ
①情報収集カルテを手作業で確認・要約カルテデータを自動取得
②文書作成白紙から手入力で作成AIが原案を自動生成
③確認・修正上級医・担当医が一から確認原案をベースに修正のみ
所要時間目安15〜30分/件5〜10分/件

5. 補助金の活用 ─「業務効率化・職場環境改善支援事業」とは

生成AIの導入にあたっては、厚生労働省の補正予算事業を活用した費用支援も視野に入れることができます。

生産性向上・職場環境整備等支援事業(令和6年度補正予算)

「医療施設等経営強化緊急支援事業」の一環として実施されている本事業では、ICT機器の導入を通じた業務効率化に対して給付金が支給されます。対象は、ベースアップ評価料を届出済の病院・診療所・訪問看護ステーションで、病院の場合は許可病床数×4万円の給付金を受け取ることが可能です。

業務効率化・職場環境改善支援事業(令和7年度補正予算)

令和7年度補正予算では、業務効率化・職場環境改善に資するICT機器等の導入に対し、1病院あたり最大8,000万円(総事業費1億円、補助率:国2/3、都道府県1/3)の支援が措置されています。「業務効率化推進委員会」の設置が要件となりますが、生成AIを含むICT機器の導入費用を大きくカバーできる可能性があります。

▼ 補助金活用のイメージ

生成AI文書作成サービスの導入費用は、上記の業務効率化支援の補助対象に該当し得ます。診療報酬改定で加算要件となった「生成AI活用」のための投資を、補助金で手当てしつつ、改定施行後には加算の上位区分取得による増収効果も期待できます。

6. 導入にあたって押さえておくべきポイント

①「AI事業者ガイドライン」への準拠

改定の施設基準では、活用する生成AIが「AI事業者ガイドライン」に準拠していることが求められます。ベンダー選定にあたっては、ガイドラインへの対応状況、個人情報保護認証の取得状況を確認することが重要です。

②電子カルテとの連携体制

生成AIによる文書作成の効果を最大化するには、電子カルテデータとの円滑な連携が不可欠です。クラウドベースのサービスであれば、特定のカルテメーカーに依存せず導入できるため、カルテ更新時の移行リスクも低減できます。

③職員への研修体制の整備

施設基準の要件として「適切な利用研修」が必須とされています。AIの出力結果の確認方法、個人情報の取り扱い、ヒューマン・イン・ザ・ループの運用フローなどを体系的に研修する仕組みを整備しましょう。

④年1回の効果評価と記録

導入後は年1回以上の効果評価を行い、院内で結果を共有・改善につなげることが求められます。作業時間の削減実績や文書品質の変化などを定量的に記録する体制を事前に設計しておくことが、算定の安定化につながります。

7. まとめ ─ 今から準備すべきこと

令和8年度診療報酬改定は2026年6月施行予定です。施行までの期間を有効に活用し、以下のステップで準備を進めることをお勧めします。

  • ステップ1:自院の医師事務作業補助体制加算の現状を確認(届出区分・配置人数)
  • ステップ2:生成AI文書作成サービスの情報収集・比較検討
  • ステップ3:補助金(業務効率化・職場環境改善支援事業等)の活用可否を都道府県窓口に確認
  • ステップ4:トライアル導入・効果検証の実施
  • ステップ5:職員研修の計画策定と院内規程の整備
  • ステップ6:施設基準届出の準備

今回の改定は、生成AIの活用が単なる業務効率化ツールではなく、診療報酬上の人員配置基準に直接関わる「経営施策」として位置付けられた画期的な転換点です。早期の検討・準備が、施行後のスムーズな算定開始と増収につながります。


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